現代世界では、地理的な境界線によって、孤立して活動する分野は存在していないと言っていいでしょう。研究分野についても、インターネットと電子メールの登場によって国境はなくなりました。事実、数年前から、科学や人文、芸術などの分野で、世界中で共同研究が増え始めて、グローバルにインパクトを与えています。アメリカ国立科学財団のレポートによると、1990年代に6,477の国際的な研究団体が新規に設立されましたが、2000年代に入って設立された団体数と比べるとほんの一部にすぎません。
これは、 グローバル化と国際化によって生まれるパワーが、世界の研究を変えているということを示しています。従来の孤立した日本の研究は、1990年代に入って変わり始めました。結果的に、日本はアメリカに次いで、世界におけるR&D投資額の13%を占める世界第2位の国になったのです。このことが達成できた大きな理由の一つは、日本の急速な工業化が挙げられます。
一方で、この日本の工業化に大きく貢献した人材は、学術研究機関出身の者たちです。よって、ここ十数年で、日本の大学のグローバル化を促進するための努力が行われてきました。
それでは、日本にとってグローバル化の妨げとなっていた要因は何でしょうか。それは、言葉の壁と、世界標準の大学暦と日本の大学暦のミスマッチという2つの要因だと考えられます。現在は、これら2つの阻害要因に対応すべく、日本が、真にグローバルな研究拠点になるための取り組みが行われています。一部の大学では、既に、学部で英語のプログラムを導入し始めています。例えば、東京大学では、全て英語で行われる学部が新たにスタートしました。また、英語で授業が行われている大学院が50以上も存在しています。
海外の大学暦と日本の大学暦のミスマッチの改善については、日本の教育システムの完全なオーバーホールが必要となるため時間がかかりますが、現在、既に検討の対象となっています。最近では、東京大学も4学期制への移行を発表しており、2015年末までに全学部に導入することを予定しています。実現すると、東京大学の2学期目が9月から始まるため、外国人学生にとっても入りやすくなりますし、日本人学生も6月〜8月の夏休みを利用して海外留学することができます。早稲田大学には、同様の目的として、海外の研究者に魅力を持ってもらうよう、2学期制に代わるものとして「クォーター制」を導入しています。
日本の「留学生30万人計画」として知られている学生の国際交流プロジェクトは、2008年に開始され、2020年までにその数を達成することを目的に掲げています。日本の研究のグローバル化に向けたもう一つの重要なプロジェクトに、「グローバル30」があります。グローバル30は、2009年に文部科学省が立ち上げ、国際化のために30の中心大学を確立することを目的としています。このプロジェクトを通じて、言葉の壁が壊され、多くの英語の研究プログラムが提供されています。
大学は未来の研究を生み出すためのゆりかごです。海外の研究者に日本の研究機関をオープンにすると同時に、 世界の研究に触れるために、日本の研究者を海外へ送り出すことが重要になります。既に、国内の大学や研究機関の研究者が、中国、ベトナム、ロシア、ハンガリー、ドイツ、フランス、そしてその他多くの国々とに訪れ、またそれらの国からの訪問も受入れています。
これらは、研究者の国際交流に向けた日本の最初のステップであり、今世紀が始まってからはより勢いを得て、これから数十年で具体的な結果を得ることになるでしょう。高等教育を受けた海外の研究者間の融合は、政策による優遇や研究プロジェクトへの投資などのバックアップによって、日本の研究のグローバル化に大いに役立ちます。そして、日本の研究を世界の舞台でさらに高い位置まで引き上げることになるでしょう。